STELLA

好きが君だけで溢れかえるまで

ミュージカル「手紙」2017

こんにちはこんばんは。

 

 

ミュージカル「手紙」を観てきました。

http://no-4.biz/tegami2/

 

人殺しの弟を世間は許さない

 

両親を亡くしてから、直貴にとって兄の剛志が親代わりだった。剛志は弟の学費ほしさに空き巣に入り、現場を見つかったために殺人まで犯してしまう。貧しくても平和だった生活が一瞬にして暗転する。 直貴は「人殺しの弟」という烙印を押されさまざまな差別に遭う。そんな彼にとって音楽との出会いが唯一の救いになった。バンド仲間との友情、初恋―だが、それさえも無残に打ち砕いたのは兄の存在だった。 一方、服役中の剛志は弟への純粋な想いを手紙につづり続ける。 その手紙が直貴をどこまでも追いつめてゆき、ついに―。 運命の荒波にもまれる兄弟の十年間をたどり、日常のもろさ、差別、償い、家族の絆―現代社会のかかえる問題をあぶりだす。

 

東野圭吾さんの小説が原作です。再演ですが初演は観ていないので、初演との違い等はわかりません。ネタバレ含んでますので未見の方はご注意ください。

 

 今回は主人公直貴役を柳下大さんと太田基裕さんのWキャストでやっているのですが、私は柳下大さんの方を観てきました。もっくんの方も観たかったなぁ。きっとそれぞれで全く違う直貴がいるだろうからどちらも観たかった。

 

あらすじは引用したので上記の通りです。突然兄が強盗殺人を犯してしまい今までの生活が一変。常に人殺しの兄の存在がつきまとい差別にあい理不尽に虐げられ、それから逃れようともがき苦しむ中、兄からの毎月の手紙で更に苦しみ…という非常に重苦しいお話です。でもだからといって観て後悔したということは全くないです。むしろ観てよかった。なかなか言葉にするのが難しいのですが、出来れば観てほしい作品です。

 

加害者の家族にスポットが当たっている作品。自分が何かをしたわけではないのに、加害者の弟だからという理由だけで差別される。学校でも差別され、職場でも差別され、やっと救いとなった音楽でも差別され。例え彼がやったわけではなくても、例え故意ではなかったとしても、人殺しの弟とは皆関わりたがらない。事件が起きる前までは大好きな兄と支えあって幸せに生きてきたのに、事件後は暗く塞ぎ込みがちになり他人を拒絶し、音楽と出会って仲間と出会って恋人と出会って前向きになった矢先にまた兄の存在によって音楽の夢が絶たれ仲間も恋人も失い再び絶望し、ずっと近くにいてくれていた存在に気付き家庭を持ち、兄の存在をなかったことにし、差別に打ち勝とうと一生懸命努力してもまた差別され。たった2時間半弱で10年の月日が流れるんですけど、その10年がすごく自然。10年間をまとめるとなるとどこかで違和感が出てきてもおかしくはないんですけど、そんなものは全くなく。どんどんどんどん変わっていくんですよ、直貴。良い方向にも悪い方向にも変わっていく。もがきながら苦しみながら、でも答えを出せないまま成長していく。なんというか本当に10年間の成長を見ている感じ。高校時代の直貴!工場で働く直貴!バンドやってる直貴!就職した直貴!ってブツ切りなんだけど、でもブツ切りじゃなくそこに至るまでの成長が見える。本当に10年見てきた感覚になる。うまく言葉に出来ないんだけど、しっかり武島直貴の10年をなぞってるんですよね。

一方で兄の剛志は刑務所の中で変わらない日々を過ごす。変わっていく直貴と変わらない、変われない剛志。根が優しい人だから毎月必ず弟に手紙を書く。最初は返ってきていた返事が来なくなる。それでも手紙を書き続ける。囚人の先輩の「お前はここで現実を見ていないが、弟は現実の中で生きてるんだよ」という言葉がすごく響きました。剛志は直貴がどんな生活をしているのか、どんな差別を受けているのかを知らない。まぁそれは直貴が言っていないから仕方ないことなのかもしれないけど。

後に、直貴が就職先の社長から「君が苦しむことも加害者の罰の一つ」だと言われるんですけど、これもなるほどと思いました。社長きつすぎるだろ……とも思いましたけど(笑)事件を起こしたことで周囲がどれほど苦しむか知ることで自分の過ちを省みることができる。でも結局直貴の苦しみは直貴が1人で抱え込んでしまっていたので、兄は知らないまま。罰を受けていないために兄の中でも弟の中でも、そして被害者家族の中でも事件がずっと終わっていなかった。

直貴が社長にどうすればよかったのか問うんですけど、本当に難しい問題ですよね、これ。差別から逃げるのでもなく、堂々とひけらかすのでもなく、周囲のことも考えながら、どう立ち回っていくのか。きっと一生正解なんて出ないし、imagineで歌われているような差別のない世界なんて存在しない。逃げないで向き合う、自己中心的にならない、言葉で言うのは簡単だけどそれを実際にやっていくとなると話は別だ。

最終的に救われるわけではないし、きっとこれからも直貴はたくさん辛い思いをして苦しみながら生きていくんだろうし、剛志だって出所した後はどうなるかわからない。笑って終われるようなお話ではないけれど、きっと観たら観て良かったなぁと思うと思います。

 

あと直貴の友人、祐輔が本当に良い人。事件前からの友人で常に直貴を気にかけていてバンドでのいざこざがあっても直貴を必死に守ろうとして。差別され続けた直貴だけど、祐輔とか後に結婚する由実子とか全く差別せずに関わって支えてくれる人もいるんですよね。社長も言ってたけど直貴はそういう人との繋がりを大事に生きていってほしいなぁと思いました。