STELLA

好きが君だけで溢れかえるまで

Innocent Sphere 「悪党」

DVDが手元に届きましたので今更ながら書きます。本当はママ僕前にあげたかった(笑)

 
 
座・高円寺 春の劇場01 日本劇作家協会プログラム
Innocent Sphere 「悪党」
2016.4.13~4.17
 
脚本・演出     西森英行
 
橋本真一  井澤勇貴
岡野康弘  谷尾宏之  垣内健吾
平佐喜子  アイリ
武藤晃子
 
狩野和馬  坂根やすし  黒川深雪
三浦知之  八敷勝  遊佐邦博
大塚公祐  吉田英成  田中まこと  鶴町憲
 
 
 
演劇史上に比類ない大悪党リチャードⅢ世と、日本犯罪史上最も凶悪といわれる死刑囚の悪の衝動、その被害者たちの生きていく力について描かれている作品です。
 
劇中劇として登場するリチャードⅢ世。その演劇を現代に活きるものとして作るために某事件の取材を行う演出家。主に事件の被害者遺族にスポットが浴びながら進んでいきます。
 
モデルとなってるのは2001年に実際にあった「附属池田小事件」ですね。
こちらの事件についてはwikiやらNAVERまとめやらもありますので気になる方はそちらをご参照ください。
 
舞台では、矢島家と伊崎家の二つの被害者遺族にスポットが当たっています。
矢島家は父(狩野和馬さん)、母(平佐喜子さん)、望(橋本真一さん)、美穂(被害者)。
伊崎家は母(黒川深雪さん)、隼(井澤勇貴さん)、綾香(被害者)、そして元夫(谷尾宏之さん)。
 
同じ遺族でありながら全く別の歩みをしています。
矢島家では、父は家庭を顧みず必死に死刑を求める署名活動をし、母は霊感商法にハマり、望は妹に対する罪悪感を抱えながら必死に妹の代わりになろうとする。
この望がとても切ない。妹を失って悲しむ両親のために、学校で署名を集め、妹がやっていたピアノを始め、霊感商法にハマる母親に妹の言葉(本当は聞こえてなんかいない)を伝え、必死に妹の代わりになろうとしてる。
妹じゃなく自分が事件にあえば良かった、自分のせいで妹が事件にあった、そう思いながら両親が自分を見てくれない中で過ごしていきます。
橋本真一くんは某テニスくらいしか存じ上げなかったのですが、非常に素晴らしい繊細な演技をされてました。
正直こんな子だったっけ!?と驚くくらいには。
自分も辛いのに、両親のことを想って精一杯できることをしようとして、でも両親の目には妹しか写っていない、でもそれは自分のせいだ、と。
最後に両親に妹が事件にあったのは自分のせいだと涙ながらに謝罪するんですよ。それがもう悲痛で。望くんに何度も泣かされました。
 
伊崎家では、離婚しておりまして母と被害者である綾香の2人暮らし。兄である隼は1人暮らししてました。それゆえ、伊崎家では矢島家のように家族としてではなく個人としての動きが多いです。むしろそれがほとんどです。
母は娘を失った悲しみから何もできなくなり自殺も考えるようになる。そこに学生時代の同級生である房子が突然訪ねてくる。房子と関わっていく中で徐々に前向きになっていきます。
一方で被害者の兄である隼は妹を失った悲しみ、犯人への憎しみが募り、どうにかして犯人を自分の手で殺せないか模索していきます。事件の取材に来た記者に紹介された格闘技バーで、犯人を殺すことだけを考えて鍛えていきます。恋人が止めても聞く耳を持たず。殺すチャンスは一度だけ、被害者遺族が立つ意見陳述。隼の恋人からそのことを聞いた母はどうにかして隼を止めようとするけど、ついに意見陳述の日が来てしまう。被告の姿を見て席を立つ隼の手を必死に握って止めようとする母の姿が苦しくて仕方がない。
結局殺すことはできずに、「なんで殺れへんかってん」と苦しむ姿も苦しい。
あんな井澤さんは初めて観たなぁというのが第1の感想。悲しみ、怒り、苦しみ、色々な感情が全身から伝わってきて本当に観ているのが苦しかった。
 
自分の辛さを押し殺して両親を想う望と、自分の辛さも両親の辛さもわかった上で自らその手を離れて終わらせようとした隼と、対称的だけどどちらも家族のことが大事で、家族を守りたくて懸命に生きていた。
最終的に生きる希望はあったんだけど、でもそれでも手放しで喜べるハッピーエンドではなくて。両家族とも悲しみを乗り越えつつあるけど完全に乗り越えられているわけではなく。
舞台を観ているというより現実の1シーンを観ているかのような。役者を観ているのではなく、本当に被害者遺族を観ているかのような。お芝居だとわかっていても目を背けたくなるような苦しい舞台でした。
でも、家族とは何か、家族の在り方、家族の愛とか本当に色々なものを感じられる、大事な人を大事にしていきたいと思える作品でした。
 
これは本当に贔屓目なしに皆に観てほしい、苦しいけど素晴らしい作品でした。
DVD貸しますので言ってください←